RIF(反復着床不全)
- HOME
- RIF(反復着床不全)
1.反復着床不全とは
体外受精において、40歳未満の方が良好な受精卵(胚)を4回以上移植した場合、80%以上の方が妊娠されるといわれている。
よって、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を「反復着床不全:repeated implantation failure:RIF」といいます。
受精卵(胚)側の原因
胚の染色体異常が原因で着床しないことが多いのですが、胚の染色体異常を「治す」治療は存在しません。
現在、着床しないことを繰り返したり、初期流産を繰り返す患者さんに対して、胚の染色体の数に異常がないかどうかを調べ、正常染色体胚を選んで移植するという「着床前スクリーニング」が、有効な治療法になるかどうか日本で臨床研究が行われています。
子宮側の原因・治療方法
子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、卵管留水腫、子宮腺筋症、子宮内腔癒着、子宮形態異常
→超音波検査・子宮鏡・手術療法
抗リン脂質抗体症候群、凝固能異常
→抗凝固療法
自己免疫抗体異常
→免疫療法、漢方治療
ホルモン異常(高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、黄体機能不全)
→各種ホルモン治療
子宮内膜受容能異常(着床の窓 implantation window の問題)
→子宮内膜受容能検査(ERA)後移植日の再検討
慢性子宮内膜炎
→EMMA、ALICEb、抗生物質
受精卵を受け入れる免疫寛容の異常
→免疫検査(Th1/Th2 細胞、ビタミンD)
具体的な治療法
慢性子宮内膜炎
子宮内膜炎とは、子宮内膜に炎症が起きている病態をいいます。
細菌感染が子宮内膜炎の主な要因です。
感染状況により急性子宮内膜炎と慢性子宮内膜炎とに分けられます。
子宮内膜の機能層と呼ばれる部分は月経の度にはがれて体外に出ていき、子宮内膜はまた新しく作られるということが繰り返されるため、炎症が起きることはほとんどありません。
そのため、急性子宮内膜炎では、月経時に子宮内膜がはがれるとともに一緒に細菌も体外へ出ていき、自然に治る場合があります。
一方、慢性子宮内膜炎は、細菌が子宮の中の基底層にまで入って、再度子宮内膜が作られるごとに感染するもので、自然には治りません。
慢性子宮内膜炎は、ほとんどの人に自覚症状がなく、自分では分からない場合があります。
時に軽度の不正性器出血や骨盤痛などが現れる人もいますが、症状に乏しいことが特徴です。
慢性子宮内膜炎の罹患率は約0.8~19%といわれています。
一方、不妊症患者ではその罹患率が2.8~39%に昇るといわれ、さらに習慣性流産や着床不全の患者では、それぞれ罹患率が60%になるという報告もあります。
慢性子宮内膜炎の診断のためには、以下のような3つの検査方法のいずれか、あるいは複合的な検査を行う必要があります。
- 組織学的検査・・・子宮内膜組織を生検し、免疫染色という方法により特異的マーカーを検出する
- 子宮鏡検査・・・子宮鏡により、間質の浮腫や肥厚、管構造周囲の充血、マイクロポリープの観察をする
- 細菌培養・・・感染の原因菌(腸球菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、ウレアプラズマ、マイコプラズマなど)の検出
しかし、この3つの検査にはすべて検出限界があります。
- 組織学的検査・・・診断結果が、生検する部位や月経周期により正確でないことがある
- 子宮鏡検査・・・診断結果には、医師の主観がともなう
- 細菌培養・・・培養が難しい、培養できない細菌が存在する
慢性子宮内膜炎の検査方法には、いずれも検出限界があり、どの検査方法を用いれば良いのかについては、まだ一致した見解がありません。
施設によっては、①~③のいずれかの検査で異常を疑う場合に、慢性子宮内膜炎と診断を下しているケースもあります。
Th1/Th2
正常妊娠では胎児・胎盤を異物とみなし攻撃するTh1細胞が減少しTh2細胞が優位になり妊娠が維持されます。
半分が精子由来である受精卵を受け入れる女性の免疫寛容が、妊娠にとって重要です。実際にRIF患者と妊孕能正常の女性のTh1/Th2細胞比を比較するとRIF患者が有意に高くなっています。
1.Th1
Th1の働きは、細胞やウイルスなどの「異物」に対して反応します。
異物を除外するために、抗体を作るように指示を出し、異物を排除していきます。
またこの時、一度作った抗体は記憶しているので、同じ異物が二度と侵入してこないように抗体を保持します。
これを抗原抗体反応といいます。
Th1が指令を出す際に産生されるサイトカインが、インターフェロンガンマ(IFN-γ)と呼ばれるものです。
2.Th2
Th2の働きは、アレルゲンに反応します。
Th2が指令を出す際に産生されるサイトカインが、インターロイキン4(IL-4)と呼ばれるものです。
Th1に偏ると炎症や自己免疫反応が起きやすくなり、Th2に偏るとアレルギーが起きやすくなります。
これらのTh1・Th2はどちらかの働きが過剰にならないように、IFN-γとIL-4のサイトカインがお互いの働きを抑制しあうように働き、免疫のバランスを保っていると考えられています。
正常妊娠では胎児・胎盤を異物とみなし攻撃するTh1細胞が減少しTh2細胞が優位になり妊娠が維持されます。
半分が精子由来である受精卵を受け入れる女性の免疫寛容が、妊娠にとって重要です。
また、実際にRIF患者と妊孕能正常の女性のTh1/Th2細胞比を比較するとRIF患者が有意に高いです。
NakagawaらはTh1/Th2比が高いRIFの患者に免疫抑制剤であるタクロリムスを併用し胚移植を施行した妊娠率が63.6%と非常に高いことを報告しています。
タクロリムスはTh1細胞を優位に低下させTh1/Th2バランスを制御し受精卵に対する拒絶反応を避けることで、着床に至ると予想されます。
ビタミンD
ビタミンDの欠乏した不妊患者がRIFと関係している報告があり、ビタミンDは免疫寛容に関連するTh2細胞やヘルパーT細胞を調節する制御性T細胞を増やし、一方、免疫拒絶に関連するTh1細胞を抑制することが報告されています。
ビタミンDは卵巣機能や着床をなどに影響するため、妊娠を考えている方には特に重要なビタミンです。
子宮内膜受容能検査(ERA)とは
ERAは、良好胚を移植しているのに繰り返して着床しない反復着床不成功の方に対して行う検査のひとつです。
着床障害の原因には、
- 子宮内膜ポリープ、筋腫、卵管留水腫、慢性子宮内膜炎
- 抗リン脂質抗体症候群、凝固能異常、自己免疫抗体異常
- ホルモン異常(高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、黄体機能不全)
- 子宮内膜と胚のクロストークの問題
などがあり、それぞれに治療が存在します。
しかし、それらの治療を行ってもなお着床しない患者さんがおられます。
近年、着床障害の検査のひとつとして子宮内膜受容能検査(ERA)が注目されるようになってきました。
1.ERA検査の目的
ERA検査はIgenomix社が特許を取得した診断技術です。
検査の目的は「子宮の着床の窓(着床ウィンドウ)を特定すること」です。
原因不明の反復着床不全(良質な受精卵を移植しても妊娠に至らない場合)の原因として、【子宮内膜の着床の窓(着床ウィンドウ)が一致していない】という可能性が考えられます。
原因不明の反復性着床障害(良質な受精卵を複数回移植しても妊娠に至らない場合)の原因として子宮内膜の【着床の窓(着床ウィンドウ)】が一致していないという報告が2014年にスペインのIVI Valenciaという施設から発信されました。
【着床の窓(着床ウィンドウ)】つまり子宮内膜に受精卵が着床できる時間や時期は個人差があり、適切な時期に移植することにより妊娠が可能になるのではないかというものです。
Igenomix社によると全世界3万を超える臨床例によって、ERA検査を受けられた方の30%近くが着床の窓(着床ウィンドウ)の時期がずれていたという結果が分かっています。
当院ではERA検査をすることにより各患者様における【着床の窓(着床ウィンドウ)】の結果から移植の時期を判断し、妊娠・出産をしていただくため実施しております。
2.ERA検査の背景
これまでは【着床の窓(着床ウィンドウ)】を知る手段として子宮内膜日付診(組織学的基準に基づく方法)というものが一般的でした。
しかしこの検査では正確に判断し移植時期を決定できるものではありませんでした。
ERA検査は患者様の子宮内膜組織より抽出したRNA産物をNGS(次世代シーケンサー)を用い、236個の発現遺伝子を解析することにより【着床の窓(着床ウィンドウ)】を明らかにすることが可能になりました。
ERA検査を受けられた方の30%近くが【着床の窓(着床ウィンドウ)】の時期がずれていたという結果が分かってきております。
3.ERA検査の方法
融解胚移植を行う周期と同様にホルモン剤を使用し内膜を調整します。
黄体ホルモン剤を使用開始後5日目にカニューレというチューブ様の器具で子宮内膜の組織を少量採取します。この検査周期では移植は行いません。
採取は5分程度です。組織採取には少し痛みがともないます。痛みに弱い方は事前に鎮痛剤を処方します。
当日は性交・入浴は不可、シャワーは可能です。検査結果がでるまで2~3週間かかります。
4.ERA検査の結果
子宮内膜を採取した時期の結果がReceptiveの場合、【着床の窓(着床ウィンドウ)】には問題がなく良質な受精卵をこの時期に同じ条件にて移植していくことにより妊娠が期待できます。
Non‐Receptiveとの結果が出た場合は、再検査が必要となります。この場合、検査結果には次回検査時の子宮内膜採取のタイミングの指示が記載されています。
再検査の結果を確認することで患者様個人の最適な移植時期を特定できますので、次回以降の同条件の周期にて良質な受精卵を移植します。
再検査によって最適な移植時期を特定した「個別化された胚移植」を実施した結果、妊娠率が24%向上しています。
子宮内膜マイクロバイオーム(EMMA検査)
EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム)検査は、子宮内の細菌環境が胚移植に最適な状態であるかどうかを判定する検査です。
細菌を調べる方法といえば、細菌培養法が最もスタンダードな手法です。
ですが、細菌培養は場所によって20~60%の細菌は培養で検出できないことが分かっています。
しかし、最新の次世代シーケンシング(NGS)技術を用いた子宮内膜細菌叢の分析では、培養可能な細菌も、培養できない細菌も含め検出できます。
EMMA/ALICE検査の生検は、自然周期では月経15~25日目、HRT周期では初回プロジェステロン投与5日後に実施できます。
患者様がERA検査のため子宮内膜生検を受ける場合、同じ子宮内膜検体を用いてEMMA/ALICE検査を実施できますので、検体はERA検査のタイミングに従って採取します。
EMMA検査では、子宮内膜検体における乳酸菌(ラクトバチルス)の割合、子宮内膜検体から特に多く検出された細菌10種類程の割合、子宮内膜の細菌叢が正常(乳酸桿菌の比率が高い)か、異常(乳酸桿菌の比率が低い、あるいは菌叢のバランスが悪い、または病原菌が存在する)かを検査します。
感染性慢性子宮内膜炎(ALICE検査)
ALICE(感染性慢性子宮内膜炎)検査の目的は、慢性子宮内膜炎の原因として特によく認められる細菌を検出することです。
感染性慢性子宮内膜炎の診断は、従来の組織学、子宮鏡、細菌培養の所見に基づいて行われています。
しかし、このような手法では、疾患の原因となる病原菌を正確に特定ができません。
ALICE検査では、分子遺伝学的方法を用いることで、微生物学的レベルで子宮内膜を評価できます。
ALICE検査の方法は、自然周期、ホルモン補充周期の移植の予定日(黄体期4日目・黄体期6日目)に実施します。
ALICE検査の結果は、感染性慢性子宮内膜炎の原因となる特定の細菌検出と数に焦点を当てています。
該当する細菌
エンテロコッカス属菌、腸内細菌科、ストレプトコッカス属菌、スタフィロコッカス属菌、マイコプラズマ属菌、ウレアプラズマ属菌などがあります。この他、クラミジア属菌およびナイセリア属菌などの性感染症に関連する病原菌についても報告されています。
費用(税込み) | |
---|---|
Trio検査(ERA+EMMA+ALICE) | 154,000円 |
ERA検査のみ | 121,000円 |
EMMA+ALICE検査 | 66,000円 |
薬剤料、ホルモン検査、超音波検査費用は上記には含まれていません。
検体不良による再検査について
ERAの検体採取は難しいために稀に検体不良にて再検査になる場合があります。その場合はホルモン薬剤料のみ費用が発生します。